可動電極FESと経皮筋刺激特許|EMS研究・特許ニュース 2026年1月
2026年1月に公開・発表されたEMS(Electrical Muscle Stimulation/骨格筋電気刺激)、NMES、FES関連の論文、特許、新商品・企業発表をまとめました。
基礎から確認したい方はEMSの教科書を、過去分を含む一覧はEMS業界ニュース一覧(年間ハブ)をご覧ください。
特許情報の読み方と注意点は、EMS・美容機器の特許解説でも詳しく説明しています。
今月の要点
- 論文・研究:3件。
- 特許:3件。
- 新商品・企業発表:0件。
第2週(1月5日〜1月11日)
論文・研究発表
運動点を追従する可動電極式ウェアラブルFES
公開日: 2026-01-08 掲載先: Frontiers in Bioengineering and Biotechnology
概要: 肘の角度に応じて上腕二頭筋の運動点が皮膚上を移動することに着目し、クランク・スライダ機構で電極自体を追従させるウェアラブルFES装置を提案した研究です。健常男性7名で、時間をずらして刺激する方式・関節角度で切り替える方式と比較しました。電気通信大学の研究にあたります。
解説: FESは脳卒中や脊髄損傷のリハビリで広く使われる一方、筋疲労が早く出るという限界を抱えています。随意運動では疲れにくい筋線維から順に動員されますが、電気刺激では速筋が先に反応しやすく、しかも多くの運動単位が同時に収縮するため、代謝的な負担が大きくなるからです。刺激する場所を運動点に合わせ続ければ、同じ効果をより小さい負担で得られるのではないか——これが出発点です。ここで問題になるのが、運動点は固定された点ではないということ。関節が動けば筋の形が変わり、皮膚上の最適な刺激位置もずれていきます。動作を伴うリハビリでは、貼った瞬間に合っていても途中で外れる。だから電極を動かす、という発想になります。
考察:結果としては、運動点を追従させた方式で疲労が有意に減り、快適性も向上しました。消費者向け製品に引き寄せて言えば、使いにくさの原因が出力不足ではなく刺激位置の問題であるケースは確かにありそうです。ただし製品性の評価は別の話です。可動機構は厚みと重さを生み、動作音が出て、可動部は摩耗します。位置がずれたときに出力を絞る制御が入っているかも含めて、機構ごと評価したい技術でしょう。7名の健常男性という規模も、現時点では方式の妥当性を示す段階と読むのが妥当です。
特許公開
Wearable game device and method thereof(CN121266104A)
公開日: 2026-01-06 出願人・権利者表示: Boreal Technology Investments S.r.l.
概要: ビデオゲームのプレイ中に装着し、キャラクターが受ける衝撃や出血といった感覚を筋肉への電気刺激で疑似体験させるベスト型ウェアラブル機器です。衣服に電極を配置し、各電極は導電性ゲル層で肌に密着、伸縮性のある導電ケーブル(エナメル銅線をジグザグ状に巻いた芯線)を刺繍で衣服に固定して制御ユニットと接続します。制御ユニットはH型ブリッジ回路(各5チャンネル)を複数備え、正負パルス幅・休止時間・強度・繰り返し回数などをパラメータ化した「トラック」単位で電気パルス列を生成し、複数の電極を同時・異なる強度で駆動することで、例えば「弾丸が胸に命中し背中から抜ける」ような一連の感覚を演出します。
解説:
出願人について
Boreal Technology & Investment S.L.はスペインの法人で、発明者はJ. Fuertes Peña氏。同社はEMS(電気的筋肉刺激)ウェアラブル分野で継続的に特許出願を行っており、本件の後続として2022〜2024年出願のEP4394542A1やWO2024153347A1(運動時の筋刺激装置)なども同社名義で公開されています。
各国での出願・権利化状況
優先権はスペイン出願ではなく2019年11月出願の欧州出願EP19382962.9に遡り、これがEP3711829B1として登録されています。以降PCT経由で各国に展開されており、EP・US・AUではすでに親出願・分割出願の両方が登録済み、JP・KRは一方が登録済みで他方が係属中、CNは親出願(CN114728201A)・分割出願(CN121266104A=本件)ともに未登録の係属状態です。優先日から7年近く経つ中で中国だけ両案件とも係属中という状況は、他国と比べて審査進行が遅れていることを示しています。
クレームの方向性
本件(CN121266104Aの分割)で確定している請求項は、装置の構造面に絞られています。具体的には、カーボン系導電層と無水自己粘着ゲル層からなる電極、160%まで伸縮可能なエラストマー芯にエナメル銅線をジグザグに巻いた導電ケーブル、それを刺繍で衣服に固定する構成、H型ブリッジ×2(各5チャンネル)を備えた制御ユニット、およびその製造方法という6つの請求項で構成されています。
明細書ではこれとは別に、電気パルスを「トラック」という単位でパラメータ化し、複数チャンネルの非同期パルス列で複雑な感覚(衝撃→出血の時間差表現など)を生成する信号処理・制御方法についても詳しく開示されています。装置クレームと方法クレームという二本立ての発明構成になっている点から見て、中国を含む各国で親出願と分割出願に分かれているのは、この「装置」と「信号生成方法」という異なる発明を審査上分離した結果である可能性があります(中国国家知識産権局は発明の単一性審査が比較的厳格で、複数発明が含まれる出願には分割出願を促す運用があります)。ただし中国の親出願・分割出願それぞれの実際の請求項内容までは確認できておらず、この点は推測にとどまります。
第3週(1月12日〜1月18日)
論文・研究発表
多裂筋へのNMES方式で立ち上がり動作はどう変わるか
公開日: 2026-01-13 掲載先: Disability and Rehabilitation
概要: 慢性の非特異的腰痛がある22名を、うつ伏せの姿勢で随意収縮を伴わずに通電する従来型NMES(11名)と、椅子から立ち上がる動作中に通電する機能的NMES(11名)に振り分け、立ち上がり時の脊椎・骨盤・股関節の動きを比較した研究です。比較用に健常者10名も評価しています。トルコ・ハジェテペ大学の研究です。
解説:多裂筋は背骨の安定に関わる深部筋で、慢性腰痛のある人ではこの筋の働きが落ちていることが知られています。ただ、電気刺激で収縮を起こすとして、それをいつ起こすかは選択の余地がある。安静姿勢で筋そのものに刺激を入れるのか、それとも実際の動作に合わせて、必要な局面で入れるのか。後者は「動作の中で使えるようにする」ことを狙う考え方で、前者とは目的が違います。この2つを同じ物差しで比べたのがこの研究です。
前提として、深部筋への刺激は「その筋が縮んだかどうか」だけでは評価しきれません。腰痛のある人の立ち上がり動作では、脊椎・骨盤・股関節の連携そのものが変わっているため、動きのパターンで見る必要があります。
考察: 部位名が同じでも、電極配置、姿勢、動作中か静止中かで刺激の意味は変わります。製品記事では「腰まわりに使える」から一歩進み、狙う筋と使用中の姿勢を明示する必要があります。
特許公開
Methods and systems for transdermally stimulating a muscle(US20260014372A1)
公開日: 2026-01-15 出願人・権利者表示: Zansors LLC
概要:
経皮的に筋肉を電気刺激する方法・システムの発明です。皮膚上の少なくとも2つの電極を対象筋の近くに接触させ、まず一方の極性(正)の電圧を一定時間、続けて逆極性(負)の電圧を一定時間印加する、という極性を交互に反転させる点が核心です。明細書は、皮膚を電気的にコンデンサとみなすモデルに基づき、直流を一方向にかけ続けると皮膚表面が局所的に分極してイオン移動が生じ、これが痛みや効果低下の一因になり得ると説明した上で、極性反転(電圧10〜300VDC、周波数1〜10kHz程度を例示)によってこの分極を抑え、より低い電圧・低出力でも十分な筋収縮が得られるとしています。実施形態としては皮膚貼付パッチ型のほか、導電性刺繍糸で電極とコントローラーを衣服に一体化した「バイオシャツ」的なウェアラブル形態も開示されており、その具体例として、リチウム電池の使用が制限される航空機・艦艇内環境向けに、アルカリ電池駆動で首・背中の痛みに対応する機能的電気刺激(FES)ウェアが挙げられています。
解説:
出願人について
Zansors LLC(米国)名義。発明者はTim White、Maurice Jackson、Ancha Baranova、Baabi Dasの4名。
各国での出願
優先権は2022年7月28日出願の米国仮出願(第63/392,916号)に遡り、2023年9月26日にPCT出願(PCT/US2023/033700)を実施、その米国国内移行案件として本件(出願番号18/994,696)が2026年1月15日に公開されています。現時点では実体審査前の係属出願(Pending)で、米国以外への移行状況は本ページの情報だけでは確認できません。
クレームの方向性
独立請求項1は装置構造ではなく方法クレームで、「電極を皮膚に接触させる」「第一極性の電圧を印加する」「逆極性の第二電圧を印加する」という比較的シンプルな手順を権利化の中心に据えています。確認できた従属請求項(2〜7)では、電圧範囲(10〜300VDC)、印加周波数(1〜10kHz)、電圧印加の合間の休止(脱勢)、繰り返し回数といったパラメータで権利範囲を絞り込んでいます。全22項のうち今回確認できたのは7項までで、システムクレームやウェアラブル機器(パッチ・ガーメント一体型)としてのクレームがどこまで独立項でカバーされているかは、残りの請求項を別途確認する必要があります。
第5週(1月26日〜1月31日)
論文・研究発表
固定期間中の中周波EMSと三角筋萎縮を検討
公開日: 2026-01-31 掲載先: Knee Surgery Sports Traumatology Arthroscopy
概要: 関節鏡下の腱板修復術後、装具で肩を固定している期間に三角筋へ中周波EMSを実施した45例と、実施しなかった43例を比較した研究です。MRIで三角筋の体積変化を追い、筋力比や機能スコアを術後12か月まで評価しています。デザインは後ろ向きの比較研究(Level III)で、ランダム化比較試験ではありません。
解説:
腱板を修復した後は、修復部を守るために数週間から6週間ほど肩を固定します。ところがこの固定期間そのものが筋を痩せさせる。三角筋の萎縮は術後1年経っても戻りきらないという報告があり、術後の機能回復を左右する要因として認識されてきました。自分で動かせない期間に、電気刺激で収縮だけでも作れないか——リハビリ領域で電気刺激が使われる典型的な理由がこれです。中周波が選ばれるのは、皮膚のインピーダンスが周波数によって変わり、高い周波数のほうが電流が通りやすく不快感が出にくいためです。
もっとも、「中周波」という名称だけでは比較になりません。搬送波の周波数、変調のかけ方、実際に起きる収縮の頻度、出力レベル——これらが揃って初めて条件が特定できます。
考察: 商品表示で『中周波だから深く届く』と単純化するのは危険です。研究で使った電極位置、波形、強度、実施時間を確認し、家庭用製品の仕様と一致する部分だけを説明すべきです。
特許公開
Method and device for activation of acupoints using a tesla coil(RS20240787A1)
公開日: 2026-01-30 出願人・権利者表示: Ivan Vasilic
概要: テスラ変圧器(テスラコイル、60kHz動作)が発する交番電磁界にさらされた患者の体内に電位を誘導し、ツボ(経穴)に当てた電極を電気的接地(アース)に接続することで、その誘導電位を大地へ逃がす際に生じる微弱な電流(0.1〜1mA程度、3〜50V相当と明細書に記載)でツボを刺激する、という方式です。明細書は、従来の電気鍼(TENS/EMS)が体内を通る2電極間の回路を必要とするのに対し、本発明では体内を電流が流れず「皮膚−電極−接地」間のみで完結する点を差別化点として挙げています。装置はテスラ変圧器(一次・二次・帰還コイル+真空管式制御回路)、放射強度を調整する可変抵抗、直径4mm・銀製の円形電極から構成され、可聴周波数帯(1〜60Hz)での振幅変調により治療効果を高めるとしています。想定用途として、外傷や痛みの緩和のほか、コロナ後遺症、うつ病、不安障害、アルツハイマー病、自閉症、加齢に伴う認知機能低下の予防・治療まで、かなり広範な適応が明細書・請求項5に列挙されています。
解説:
出願人について
企業名義ではなく、Ivan Vasilić氏とSuarez Edel Pons氏の個人共同出願です。
各国での出願
2024年7月12日にセルビアへの単独出願として提出され、PCT出願や他国への出願記録は確認できません。パリ条約上の優先権主張ができる12ヶ月の期限(2025年7月)もすでに経過しているため、本出願を基礎とした優先権付きの外国出願は今後行えない状態です。国際的な権利化を目指す出願というより、国内限定の権利化、あるいは技術的立場の確保を目的とした出願である可能性があります。
クレームの方向性
請求項は全5項とシンプルです。請求項1(装置)はテスラ変圧器+接地電極という構成のみを規定し、請求項2でコイル構成と音声変調回路を付加。請求項3・4(方法)は「電磁界に患者をさらす」「誘導電位を接地電極経由で流し、ツボを刺激する」という手順クレームです。特に請求項5は、認知機能障害・加齢性認知低下・うつ病・不安障害・アルツハイマー病・自閉症・コロナ後遺症といった多様な疾患の予防・治療という効果クレームになっており、単一の物理的機構(接地電流によるツボ刺激)にこれだけ広範な臨床効果を紐づけている点は、権利範囲としても医学的裏付けとしても異例に広い印象です。
