ヤーマン新製品と循環・運動領域のNMES研究|2026年5月
2026年5月に公開・発表されたEMS(Electrical Muscle Stimulation/骨格筋電気刺激)、NMES、FES関連の論文、特許、新商品・企業発表をまとめました。
基礎から確認したい方はEMSの教科書を、過去分を含む一覧はEMS業界ニュース一覧(年間ハブ)をご覧ください。
特許情報の読み方と注意点は、EMS・美容機器の特許解説でも詳しく説明しています。
今月の要点
- 論文・研究:5件。
- 特許:1件。
- 新商品・企業発表:1件。
今月の軸は「歩行距離は伸びたのに、循環の指標は動かなかった」という一つの結果です。末梢動脈疾患を対象としたランダム化試験で、ふくらはぎNMESが歩行距離を有意に改善する一方、血流や血圧比の指標には差が出ませんでした。フットEMSの訴求を考えるうえで、避けて通れない材料です。
※週区分は月曜起算です。第18週は4月27日〜5月3日にあたるため、5月分のみ掲載しています。
第18週(5月1日〜5月3日)
論文・研究発表
透析中の下肢虚血患者にEMSを用いたパイロット研究
公開日: 2026-05-01 掲載先: Plastic & Reconstructive Surgery Global Open
概要: 血液透析を受け、下肢虚血がある患者にEMSを適用し、循環や筋力の変化を探索した小規模なパイロット研究です。
解説:
この領域で問いが立つ理由は、対象となる人たちの置かれた条件にあります。透析を長く受けている人は動脈硬化が進みやすく、下肢の血流障害を併発しやすい。同時に、運動療法を勧めにくい層でもあります。透析の時間そのものが拘束であり、下肢に虚血があれば歩行負荷もかけにくい。筋収縮を外から作れる手段があれば、その隙間を埋められるのではないか——EMSが検討される背景はここにあります。
ただし、虚血のある肢に刺激を加えること自体が確認事項です。効果の大きさを測る前に、実施できるのか、安全に行えるのかを見る段階があり、パイロット研究はそこに位置します。タイトルに改善とあっても、対象が限定された小規模研究であることは変わりません。安全管理を伴う医療環境の結果を、健康な人の家庭用EMS使用へ一般化することはできません。
考察: 探索研究は次の大規模試験につなぐ役割があります。一般記事では結果の方向だけでなく、人数、比較群、追跡期間、有害事象を確認してから表現を決めます。とくに「虚血がある人にも使えた」という事実は、「血流が良くなる」とは別の主張です。両者を混ぜないことが、この種の研究を扱ううえでの最低条件になります。
第19週(5月4日〜5月10日)
新商品・企業発表
ヤーマンがEMS搭載「ヴェーダニードルスパ デュアル」を発表
発表日: 2026-05-05 発表元: ヤーマン株式会社
概要: ヤーマンはサロン向けラインの新製品として、頭皮用ともみ出し用の2種アタッチメントを備え、頭皮・顔・ボディで使うEMS搭載機器を2026年5月6日から順次発売すると発表しました。公式表示ではEMS出力を従来品比111%としています。
解説: 「111%」はメーカー内の従来品との比較値で、刺激の感じ方や目的部位での筋収縮をそのまま表す数値ではありません。比較対象機種、測定条件、電極の接触面積、出力制御を合わせて確認する必要があります。同じ出力表示でも、電極が小さければ電流密度は上がり、体感は強くなります。逆に接触面積が広がれば、表示上は同じでも感じ方は穏やかになります。数値だけを取り出しても比較にならないのはこのためです。
考察: アタッチメント交換で接触形状を変える設計は、単純な最大出力競争より実用面で重要です。元エンジニア目線では、部位ごとの電極間隔と接触検知がどのように変わるかを次に確認したい製品です。頭皮・顔・ボディという三つの部位は、皮膚の厚みも毛髪の有無も筋の深さも違います。一つの本体で三つを担保する設計であれば、その差をアタッチメント側でどう吸収しているかが見どころになります。
論文・研究発表
末梢動脈疾患へのふくらはぎNMES、歩行距離は伸び、循環の指標は動かず
公開日: 2026-05-07 掲載先: European Journal of Preventive Cardiology
概要: 同誌に掲載されたランダム化比較試験「ELECTRO-PAD」(フランスの大学病院5施設、成人73名)に対する論説です。試験本体は、歩行障害のある末梢動脈疾患患者を対象に、3か月間の在宅ふくらはぎNMESと通常ケアを比較しました。トレッドミル最大歩行距離は、NMES群で148.5mから254.1m、通常ケア群で142.5mから175.8mへ変化し、群間差は69.9m(95%信頼区間 10.8〜129.0、P=0.02)。6分間歩行の総距離も29.6mの差がつきました。一方、無痛歩行距離、歩行障害の自己評価、生活の質のスコア、足関節上腕血圧比、前腕とふくらはぎの血流反応の指標には、いずれも差が出ていません。
解説:
末梢動脈疾患による間欠性跛行に対しては、監視下の運動療法が最も効果的だと分かっています。問題は、それを受けられる人が限られることです。施設が近くにない、通えない、続かない。そこで在宅でできる代替手段が探されてきました。NMESは座ったまま筋収縮を起こせるため、この文脈で繰り返し候補に挙がってきた技術です。ただし過去の試験は規模が小さく、期間も1か月程度と短いものでした。3か月・多施設で検証したのがELECTRO-PADです。
読むうえでの前提として、この分野では「歩行距離」と「循環の指標」が別々に測られます。歩けるようになったことと、血流が改善したことは、同じではないからです。歩行距離の変化には、痛みの感じ方、筋の疲れにくさ、歩き方の変化など、複数の要因が絡みます。
考察: 結果の非対称が、この試験の読みどころです。歩行距離は改善した。しかし足関節上腕血圧比も、血流反応の指標も動かなかった。つまり「歩けるようになった」ことは示されたが、「血流が良くなったから歩けるようになった」とは示されていません。
フットEMSの広告では、血流や循環という言葉が広がりやすい領域です。医療管理下・疾患のある人・3か月という条件下ですら循環指標に差が出なかった事実は、家庭用製品の循環訴求に対する具体的な反証材料になります。効果の方向が良好な研究であっても、どの指標が動き、どの指標が動かなかったかまで見なければ、誤った訴求に加担することになります。
なお論説は、この69.9mという改善幅を、薬物療法(約40m)や在宅運動療法(約55m)より大きく、監視下トレッドミル運動(約180m)より小さい、と位置づけています。代替ではなく補完、という読み方が妥当でしょう。当然ながら、疾病の改善を訴求する用途へ転用はしません。
論説の原資料を確認する(European Journal of Preventive Cardiology)
試験本体(ELECTRO-PAD RCT)を確認する
特許公開
Methods and systems for transcutaneous muscle stimulation(KR20260061525A)
公開日: 2026-05-06 出願人・権利者表示: Zansors LLC
概要: 対象筋の近くへ複数の電極を配置し、経皮的に筋を刺激する方法とシステムに関する韓国公報です。
解説:
出願人について
Zansors LLC(米国)名義。本連載では2026年1月号で、同社の米国公報 US20260014372A1(Methods and systems for transdermally stimulating a muscle)を取り上げています。出願人・表題・技術内容がいずれも一致することから、本件は同一ファミリーの韓国移行案件と見てよいでしょう。米国公報で確認できた技術的な核は、皮膚を電気的なコンデンサとみなし、極性を交互に反転させることで皮膚表面の分極を抑え、より低い電圧でも十分な筋収縮を得るという点でした。
各国での出願
優先権は2022年7月28日の米国仮出願(第63/392,916号)に遡り、2023年9月26日にPCT出願(PCT/US2023/033700)。米国国内移行案件が2026年1月に公開され、本件はその約4か月後の韓国公開にあたります。同一PCTから複数国へ順次展開している段階と読めます。なお、韓国公報そのものの請求項内容は未確認であり、ファミリーの同一性についても公報間の照合による推定です。
クレームの方向性
米国側の独立請求項は装置ではなく方法クレームで、「電極を皮膚に接触させる」「第一極性の電圧を印加する」「逆極性の第二電圧を印加する」という手順を中心に据えていました。韓国では審査基準も補正の扱いも異なるため、同じPCTを基礎としていても請求項の形が米国と揃うとは限りません。ファミリーを追う際は、どの国でどこまで権利範囲が残ったかを個別に見る必要があります。
Google Patentsで公報を確認する(KR20260061525A)
第20週(5月11日〜5月17日)
論文・研究発表
脳性まひ児への個別化NMESを比較した公開ランダム化試験
公開日: 2026-05-17 掲載先: Physical and rehabilitation medicine medical rehabilitation
概要: 痙直型両麻痺の脳性まひ児を対象に、個別調整したNMESをリハビリへ加え、痙縮、筋力、持久力を比較した公開ランダム化研究です。
解説:
痙直型の脳性まひでは、拮抗する筋どうしの緊張バランスが崩れています。単純に「弱い筋を鍛える」という発想が通用しにくく、一律の刺激設定では、かえって過緊張を助長する可能性がある。だからこそ、対象ごとに筋緊張と運動機能を評価したうえで設定を決める必要がある——個別化という切り口が持ち出される理由はここにあります。それが実際に成果の差につながるのかを検証したのがこの研究です。
前提として、小児・神経疾患・個別調整という条件が重なる研究です。刺激強度の決め方や専門家の監督が結果を左右するため、一般向け製品の自己使用とは前提が異なります。
考察: 「個別化」は注目語ですが、単にレベルを選べることとは違います。筋緊張、運動機能、忍容性を評価して設定を変える工程まで含めて初めて個別化と呼べます。製品側で「パーソナライズ」「自動調整」と表示される機能が、何を測って何を変えているのかは、都度確認したい点です。
第21週(5月18日〜5月24日)
論文・研究発表
バレーボールの低負荷上半身運動でBFRとEMSを比較
公開日: 2026-05-22 掲載先: The Journal of Strength and Conditioning Research
概要: バレーボール競技者の低負荷上半身運動を対象に、血流制限またはEMSを用いた事前刺激が、その後のパフォーマンスへ与える急性影響を調べた研究です。
解説:
主運動の前に何らかの刺激を入れておくと、その後の出力が一時的に高まることが知られています。従来これは高重量を扱うことで狙われてきましたが、競技現場では、試合前に重い負荷を扱うわけにはいかない場面が多い。低い負荷のまま同じ効果を得られる手段はないか——そこで候補に挙がるのが血流制限とEMSです。両者はまったく異なる仕組みですが、「重量を上げずに筋へ強い刺激を与える」という点で目的が重なります。この研究が両者を並べたのはそのためです。
読むうえでの前提は、一時的なパフォーマンス向上と、長期の筋肥大や技術向上はまったく別物だということ。測定直後の変化、競技種目、運動経験を区別して読む必要があります。
考察: スポーツ向けEMSは「いつ使うか」が重要です。ウォームアップ、主運動、回復のどこへ入れた研究かを示さず、日常の長期効果へ広げない編集が必要です。事前刺激としての知見を「毎日つけていれば鍛えられる」に読み替えるのは、時間軸の異なる主張のすり替えにあたります。
第22週(5月25日〜5月31日)
論文・研究発表
腰痛に対するTENS・EMS・運動・温熱を探索比較
公開日: 2026-05-29 掲載先: European Journal of Pain
概要: 腰痛を対象に、TENS、EMS、運動、温熱という異なる介入を比較したランダム化探索的臨床試験です。
解説:
腰痛に用いられる保存的な手段は数多くあります。ところが、それぞれを個別に検証した研究はあっても、同じ条件下で横並びに比較した研究は多くありません。臨床でも製品選びでも「どれを選ぶか」が問われるのに、比較の土台がない。探索的とはいえ、複数の介入を同一の試験に載せることには、そこを埋める意味があります。
前提として、これらは作用点が違います。TENSは痛みへの神経刺激、EMSは筋収縮、運動と温熱はさらに別の介入です。体感が似ていても目的と作用点が異なるため、モード名を正しく選ぶ必要があります。
考察: 温熱EMSベルトのような複合機器を評価する際に参考になる比較軸です。複数モードを積んだ製品は「全部入り」として売られがちですが、この研究の枠組みで言えば、それは性質の異なる介入を一台にまとめたという意味でしかありません。ただし腰痛改善は医療的主張であり、家庭用雑貨の訴求へそのまま使わないことが重要です。
